今回のインタビューは、2021年にMIISを卒業後、IT企業で通翻訳者として活躍中の渡部美樹さんです!
◆はじめに、MIISで学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
通訳の仕事に対しては学生時代から漠然とした憧れがあり、大学4年次に学部で開講されていた通訳入門のクラスを受講しました。当時そのクラスで教えていただいていた恩師からMIISのお話を伺ったことがきっかけです。実践的なプログラムに魅力を感じ、集中して通訳に没頭できる環境に身を置いてみようと社会人3年目の時に入学を決めました。
◆卒業後は、主にどのようなお仕事をしていますか。
卒業後すぐにIT企業で社内通訳・翻訳として採用いただき、2024年6月現在で4年目に入りました。全社対応のチームのため、日々通訳する会議は分野を問わず多岐にわたります。サービスの開発や保守の会議も多いですが、法務、営業、会計、人事など様々な部門から定例や単発の会議、ワークショップなどの依頼が来たりする他、全社集会や社外向けのイベントなども対応しています。
翻訳については業務全体の2割ほどです。社内向けの資料をはじめプレスリリースや営業資料など社外向けの案件にも対応しています。
◆MIISで学んだことが、いまお仕事にどう活かされているか、お聞かせください。
MIISで学んだ通訳、翻訳のスキルはもちろん毎日の仕事に活かされています。初心者の私を基礎から育ててくださったMIISの先生方との2年間がなければ、社内通訳・翻訳者としてスタートを切ることは到底叶わなかったと思います。教えていただいたことは数えきれませんが、特に通訳のデリバリーについては、MIIS在学中に得た学びが今でも自分の体に深く染み付いているような気がしています。日々の授業や実習などの通訳では、勉強の甲斐も虚しく、恥をかいたり、失敗したりの繰り返しでしたが、「自分の訳を届ける相手をイメージすること」を先生方は何度も思い出させてくださいました。自分の緊張や不安、焦りは通訳を聞く人には何も関係のないこと、と肝に銘じ、訳し終わるまで絶対に諦めないこと、不安を声にのせずに堂々と訳す覚悟は、今の仕事場でも、特に苦しい場面では拠り所になっています。
翻訳についても、MIISでは日々の授業で科学技術、医療、環境、政治など幅広い分野の翻訳を添削いただいたり、修士論文で書籍の翻訳をする機会をいただいたり、貴重な経験ばかりでした。課題に取り組む度に、徹底的なリサーチがいかに訳文の質を左右するかを肌で感じました。どんな分野であっても、原文の意味を正確に理解し、対象読者にとって自然で適切な表現を目指す、翻訳者としての基本姿勢を学びました。そのための読解や検索のコツ、シソーラスの活用など、教えていただいたことが日々の業務で活きています。
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◆MIISの学生生活のなかで、一番思い出に残っていることは何ですか。
私が留学していた時期は2019年の夏から2021年の春で、ちょうど1年次の後期から卒業までコロナ禍にあたり、期せずして少し異色な学生生活を送ることになりました。たくさんの思い出の中でも、やはり「コロナ禍での留学生活」が私の中では大きなテーマとして心に残っています。期待と不安に胸を膨らませて、ブースでの同時通訳の訓練が始まったのも束の間、教室が閉鎖され、すべてオンライン授業への移行が決まった時の、悲しさと口惜しさが入り混じった感情は今でも覚えています。買いだめする人でごった返すスーパーマーケット、売り切れるトイレットペーパー、初めての外出禁止令・・・海沿いの遊歩道をマスクで散歩する人々の光景も、当初は異様でしたが、あっという間に当たり前になりました。
不安や心細さはありながらも、モントレーに残って学生生活を続けていくことができたのは、先生方やクラスメイト、卒業生が傍にいて支えてくださったおかげです。人と人との繋がりや温かさをこれほどまでに感じた経験はなく、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。未曽有の混乱の中でも、学校や先生方が素早くオンラインで授業を再開、適切に情報を連携してくださり、留学生でも安心して学生生活を続行できるよう最大限の配慮をしてくださったことが本当に有難く、MIISに進学して良かったと心から感じました。勉強の面でも、決して悪いことばかりではありませんでした。オンライン授業になったことで、通学などの時間を削れるため効率的に、またマイペースに日々の勉強のスケジュールを組むことができましたし、Zoomを使ったオンライン通訳に慣れていることは、卒業後の就職活動で有利に働きました。
◆入学希望者の方たちに、特にアドバイスがあればお願いします。
MIISは、通訳者、翻訳者を本気で目指す人に、望んだ以上の試練と成長の機会を与えてくれる場所です。諦めずに全力で取り組んでいれば、温かく手を差し伸べてくれる先生方やクラスメイトの輪があります。もしも当時の私のように、準備や実力不足を不安に思ってあと一歩踏み出せない方がいらっしゃったら、是非思い切りよく飛び込んでみてください。MIISでは一人孤独に通訳、翻訳の訓練を受けるのではなく、尊敬する先生方に指導いただきながら、同じ志を持った仲間と出会い、切磋琢磨する濃密な2年間を過ごせるはずです。私自身、振り返れば決して順風満帆とはいかなくても、何のこれしき!と必死に毎日を積み重ねているうちに、ふと気が付くと否応なしに成長させてもらっていたなと思います。
それから、モントレーはとても素敵な街です。入学後は四六時中、勉強ばかりでは2年間体がもたないので、たまには散歩して綺麗な海を眺めたり、水族館に行ってみたり、息抜きも忘れずに!と伝えたいです。在学中にもっとモントレーを満喫しておけばよかったなと、卒業後に後悔した私からのささやかなアドバイスです。